樹脂加工とは
樹脂加工は大きく分けると、成形加工と切削加工分けることができます。成形加工というのは、例えば、射出成形や真空成形、圧縮成形のことで、樹脂を柔らかくして金型にはめるなどして樹脂を変形させる加工のことです。成型加工は主に量産する場合に用いられます。切削加工は、例えば、旋削加工やフライス加工、穴あけ加工といった工作機械を用いて樹脂を削る加工のことで、少量多品種に適しています。
またその他にも、曲げ加工や抜き打ち加工、ウォータージェット加工などがあります。今回は樹脂加工の中でも、切削加工に焦点をあてて解説していきます。
樹脂加工(樹脂切削)で使われる材料
樹脂切削加工では様々な種類の樹脂を対象として扱うことができます。そのため樹脂切削加工で扱う樹脂を分類してから、それぞれの具体的な特徴や性状についていくつか抜粋して紹介します。
樹脂切削加工が対象とする樹脂は食べ物に例えると、アイスクリームのように熱を加えると柔らかくなる熱可塑性樹脂と、お好み焼きのように熱を加えると固くなる熱硬化性樹脂に分けることができます。
また、熱可塑性樹脂はさらに汎用樹脂とエンジニアリングプラスチックに分けることができます。エンジニアリングプラスチックは汎用樹脂と比べて高価ですが、機械的強度、耐久性に優れており工業用の部品として金属部品と代用として使用されています。汎用樹脂は加工性に優れ価格も比較的安いものが多いため、幅広い用途に用いられます。
エンジニアリングプラスチックはさらに汎用エンジニアリングプラスチックとスーパーエンジニアリングプラスチックに分類することができます。スーパーエンジニアリングプラスチックは汎用エンジニアリングプラスチックよりさらに熱耐久性を高めた樹脂のことです。汎用エンジニアリングプラスチックの熱変形温度が100度以上であるのに対し、スーパーエンジニアリングプラスチックは熱変形温度が150度以上になっています。
①熱硬化性樹脂
フェノール樹脂(PF)
フェノール樹脂は人工的な樹脂の中では、最も古くから使用されている樹脂です。特徴としては電気を通さないという高い電気絶縁性、150度から180度でも強度を保つ、耐熱性、耐燃性、接着性、耐酸化性に優れており、精度を出すために必要な寸法安定性にも優れています。例えば機械部品や自動車部品に使用されています。
メラミン樹脂
メラミン樹脂とは、メラミンとホルムアルデヒドの縮合重合によって生み出される樹脂です。特徴としては強度があり、耐衝撃性、表面硬度、引張強度、耐候性、耐摩耗性、耐水性が高いです。また対燃製、耐水性、電気絶縁性、電気火災の防止に役立つ耐アーク性・耐トラッキング性にも優れています。また着色性や光沢性にも強みをもっています。例えばプラスチック食器、化粧板、塗装の材料として用いられます。
②汎用樹脂
ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレンとは炭素と水素を重合することで生成される樹脂で、生産量もかなり多いです。特徴としては機械強度があり、引張強度、圧縮強度、衝撃強度が高く、表面が滑らかなので傷もつきにくく、耐熱温度も熱可塑性樹脂の中では高いです。また耐薬品性にも優れています。そして安価に大量生産がしやすい、添加剤によって特性を付加できる、比重が軽いという特徴もあります。様々な用途に使われており、例えば電子レンジの食品トレイや工業用コンテナ、化学機器製品、自動車部品、お菓子の包装、コップなどに使用されています。
アクリル(PMMA)
アクリルはアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体で、透明性、耐候性が優れているため別名プラスチックの女王と呼ばれています。特徴としては太陽光や風雨にさらしても耐えることができる耐候性を持ち、また強度もガラスより強く、割れにくく飛び散りにくいです。また透明度に優れていたり、加工もしやすいです。例えば水族館の巨大な水槽や飛行機の窓、浴槽や洋室トイレ、フォトフレーム、自動車のランプレンズなどに使用されています。
③汎用エンジニアプラスチック
MCナイロン
MCナイロンは、モノマーキャストナイロンのことです。ナイロンモノマーを大気圧下で重合・成型し、ナイロンの特性を高めた樹脂です。特徴としては様々な耐性があり、耐衝撃性、耐薬品性、耐熱性に優れています。また機械的強度もあります。摩擦係数が少ないため、自己潤滑性も保持しています。例えば機械部品、歯車、軸受け、戸車、耐摩耗用品、衣料品、パイプに使われています。
ジュラゴンⓇ(POM)
ジュラゴンⓇはポリプラスチックス株式会社の登録商標で、ポリオキシメチレン(POM)のうち、コポリマーに属する樹脂です。特徴としては、耐疲労性、耐摩耗性、耐クリープ性、弾性回復性などの耐性に優れており、また電気絶縁性、自己潤滑性、にも優れています。例えなバネや歯車、ねじ、軸受け、キャビネットに用いられます。
④スーパーエンジニアリングプラスチック
テフロン(PTFE)
テフロンはフッ素樹脂の中では最も使われている樹脂です。特徴として耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐候性などの複数の耐性があり、絶縁性、耐候性にも優れています。例えば各種薬液の搬送などに用いるプラントやチューブ、ホース、絶縁材や表面コーティングの材料として用いられています。
ピーク(PEEK)
ピークは高機能な樹脂として知られています。また基本グレードの他にも特性を付加したグレードが複数存在します。特徴としては様々な耐性があり、耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性、耐放射性、耐引張特性、耐衝撃性を備えています。また食品安全性や絶縁性、難燃性も保持しています。用途としては様々な業界で使用されており、航空宇宙、自動車、食品加工、医療、電子産業などで使用されています。例えば自動車業界ではギア、ワッシャー、ベアリングなどの部品として使用されています。
樹脂加工のソリ対策
反りとは樹脂切削加工における代表的なトラブルで、材料が変形してしまうトラブルのことです。
反りの原因として、残留応力が挙げられます。残留応力というのは例えば外から材料に対して圧力が加わった時に、反発する抵抗力である応力が発生しますが、外から力が加わらなくなった後にもその応力が残っている状態のことです。また残留応力には力が内部から外部に向う引張残留応力と力が外部から内部に向かう圧縮残留応力があります。反りを防ぐための対策として、材料へのアニール処理と切削加工の工夫が挙げられます。
①材料への工夫
材料にアニール処理を行うことで反りを防止するとができます。アニール処理というのは、熱を加えることで、反りの原因である残留応力を分散させる処理のことです。ただし熱を加えると言っても、樹脂の種類によって温度を変える必要があります。
樹脂には、結晶構造を持つ部分と持たない部分がある結晶性樹脂と結晶構造をもたない非結晶性樹脂があり、アニール処理を行う際には分けて考える必要があります。また、結晶構造というのはプラスチックを構成している高分子が規則正しく配列している部分のことです。
結晶性樹脂に対するアニール処理ではガラス転移点(Tg)以上の温度で、使用時に要求される最高温度より30度程度高い温度で材料を熱する必要があります。ガラス転移点といううのは樹脂が熱で柔らかくなった状態であるゴム状と柔らかくない状態であるガラス状の間の温度のことです。アニール処理をする温度が100度を超える場合には2段階に分けて加熱する必要があり、150度程度まで熱してから、水分を除去してからガラス転移点まで加熱します。アニール処理を行うことで結晶性樹脂の非結晶の部分が結晶して、結晶比率が高まり、反りを防ぐことができます。
非結晶性樹脂に対するアニール処理ではガラス転移点より30度程度低い温度か、荷重たわみ温度よ1より10度程度低い温度で材料を熱する必要があります。荷重たわみ温度とは、樹脂に負荷をかけた状態で徐々に熱し、曲げ歪みの増加分が0.2%になる温度のことで、樹脂の耐熱性を示す指標として使われます。
②切削加工の工夫
切削加工を工夫することで、反りを防止することができます。例えば、片面だけの切削で済む場合であっても、本来削る必要がなり逆の片面を削るという例が挙げられます。
樹脂加工のコストダウンのポイント
樹脂加工におけるポイントとして材料費を抑えることが挙げられます。材料費を抑えるためにできるだけ無駄な材料を減らすことが必要です。例えば、市場で流通している定尺サイズを踏まえて、そのサイズを最も効率的に、無駄なく使用できる数量で部品を発注することでコストを抑えることができます。
また他にも、入手困難な素材をそのまま入手しようとするのではなく、入手しやすい素材を工夫して要求スペックを満たすことによってコストを抑える方法、つまり入手性を改善する方法もあります。例えば、厚さ100mm以上POMの加工品が必要な場合、そのまま国内で入手するのは困難です。しかし、厚みが足りないPOMでも、ネジ止めして組み合わせることで厚さ100mm以上の加工品を製作することができます。